今回は、家庭の防犯対策として非常に有効とされている『防犯ガラス』の基礎知識についてご紹介したいと思います。新築戸建て住宅の購入を検討している方であれば、窓に採用するガラスに迷っているという方も多いかもしれませんね。実はたいして種類などないと考えられている窓ガラスですが、さまざまな製品が存在しており選択する物によって得られる効果というものが違ってくるのです。その中でも特に注意が必要なのは、空き巣被害などを防止するために選択される『防犯ガラス』です。防犯ガラスは、その名称から分かるように、窓ガラスを割れにくくして侵入を防ぐことを目的としたものなのですが、他にも『防犯』に役立ちそうな名称のガラスが存在するため、間違った製品を選んでしまう人も少なく無いのです。
そこで今回は、「できるだけ安全性の高い住宅を実現したい!」と考えている方のため、家の建築前におさえておきたい防犯ガラスの基礎知識をご紹介します。
防犯ガラスの効果って本当にあるの?
それではまず、住宅の窓ガラスとして『防犯ガラス』を選択した場合、本当に防犯効果があるのか?と言う点についてご紹介しておきましょう。防犯ガラスは「犯罪を防止するガラス」という意味で名づけられていますので、窓ガラスを防犯ガラスにすれば空き巣被害などを完全に防ぐことができるものだと考えているかもしれませんね。映画などで出てくる防犯ガラスは、拳銃さえ防いでしまうシーンが登場しますので、こういったイメージを持ってしまうのも致し方ないことかもしれません。
最初に言っておきますが、家庭用として販売されている『防犯ガラス』はそこまでの強度はありませんよ。もちろん、通常の窓ガラスと比較すれば、圧倒的に割れにくくなっているのですが、それでも100%割れることはないわけではありません。しかし、家庭の防犯対策を考えた場合、確実に効果を見込めるものですので、以下で数字を含めて防犯ガラスの効果をご紹介しておきます。
防犯ガラスは確実に防犯性を高くする!
皆さんは、空き巣犯などはどこから住宅内に侵入しているのだと思いますか?玄関のカギをかけ忘れていた…なんて原因もあるのですが、実は侵入窃盗の侵入口は「窓から侵入する」場合の方が多いのです。以下に警視庁生活安全総務課が公表した2020年7月の「住宅対象侵入窃盗の侵入口」のデータをご紹介しておきます。
- 出入り口から侵入:36.4%
- 窓から侵入:63.4%
このように、住宅を対象とした侵入窃盗については、何らかの方法で窓から侵入されることが多いのです。つまり、窓ガラスの防犯性能を向上させておけば、多くの侵入犯罪を防ぐことが可能になるのです。例えば、空き巣犯については、侵入に時間がかかるのを極端に嫌うため「窓が割れにくい」というだけでも、侵入を諦める場合が多いというデータもあるのです。
過去に(財)都市防犯研究センターが行った調査では、空き巣犯などが侵入を諦める時間について「2分」と答えた元窃盗犯が約17%で「2分を超えて5分以内」と答えた元窃盗犯が約51%だったそうです。つまり、侵入犯の攻撃に5分耐えられる設備が整っていれば、約7割の住宅侵入窃盗を防ぐことができるということです。
これからも分かるように、窓ガラスを通常の物よりも割れにくい防犯ガラスにすることで、家庭の防犯性は格段に高くなると言えるのです。
参考資料:警視庁「令和元年中の住宅対象侵入窃盗の発生状況」
参考資料:千葉県警「防犯性能の高い建物部品について」
防犯ガラスの構造とその強度について
引用:日本板硝子公式サイトより
それでは、防犯ガラスが通常の窓ガラスよりも割れにくくなっている理由についてもご紹介しておきましょう。防犯ガラスの強度というのは、その構造によって得られているのです。
通常の窓ガラスは、一枚のガラス板になっているのですが、防犯ガラスと呼ばれるタイプは、2枚のガラス板を用意して、その中間に合成樹脂の膜(中間膜)を挟み、両側から圧着させた合わせガラスのことなのです。この構造をしたガラスであれば、侵入犯が外側からガラスに衝撃を与えて割ったとしても、中間膜にガラスが密着して脱落することを防いでくれます。また、中間膜自体が高い「耐貫通性」を持っているので、ちょっとやそっとの衝撃では穴をあけることができないのです。こういった構造から、侵入犯が窓ガラスを破って住宅内に踏み込むことを防ぐのです。
ただし、防犯ガラスにもいろいろな種類が存在しており、中間膜に採用される素材や厚みが異なることで、防犯ガラスそのもの強度が変わってきます。防犯ガラスの強度は以下のような感じになります。
防犯ガラスの強度
上述しているように、防犯ガラスは絶対に割れないものではなく、あくまでも「割れにくいガラス」ですので、製品の耐衝撃性を超える攻撃を受けてしまえば普通に割れてしまいます。したがって、自宅の窓ガラスを防犯ガラスにしようと考えた場合、求める防犯能力によって必要な強度が変わってきてしまうのです。
防犯ガラスの強度については、2枚のガラス板の中間に挟まれる中間膜によって変わります。例えば、中間膜の厚みを増やせばその分、強度は高くなりますし、中間膜の素材によってもその強度は変わってくるのです。以下に中間膜の厚みごとの強度の参考をご紹介しておきます。
- 中間膜の厚さが30mil(0.76mm)の場合・・・そこまでの強度は無い
ドライバーなどによるこじ破り対策になるが、バールなどの打ち破りにはあまり効果が無いと言われる。 - 中間膜の厚さが60mil(1.52mm)の場合・・・それなりの強度を持っている
こじ破り対策はもちろん、ある程度の打ち破り対策にも効果的と言われる。このクラスが主流と言われています。 - 中間膜の厚さが90mil(2.28mm)での場合・・・高い強度を持っている
打ち破り対策など高い強度を誇ります。ただし、ガラスが厚くなってしまうため、一般住宅の既存サッシには入りません。
防犯ガラスの強度については、上記のように中間膜の厚みでその強度が大きく異なります。したがって、求める防犯レベルによって導入する製品を考えなければいけないのです。
また、防犯ガラスは、中間膜の素材によってもその強度が変わってきます。中間膜には、主にポリビニルブチラール(PVB)樹脂が使用されるのですが、PVBよりも高い耐貫通性を持つポリカーボネート(PC)樹脂が採用されている防犯ガラスもあります。このタイプであれば、中間膜が薄くなっても高い強度を得ることが可能です。ただし、PCを中間膜に採用した防犯ガラスは割高になってしまいます。
よくある防犯ガラスの間違いについて
次は、実際に窓ガラスを防犯ガラスにしようと考えている方が、意外と陥りやすい勘違いについてご紹介しておきたいと思います。新築戸建てを購入する場合には、建物の外観デザインや内装、住宅設備などに注目する方は多いのですが、窓ガラスに関して細かく調べて注文を付ける方はあまりいないかもしれませんね。
そのため、住宅で採用する窓ガラスの性能について勘違いしてしまっている場合も少なく無いのです。近年では、使用する窓ガラスによって断熱性や防音性が得られたり、防犯性能が向上したりとさまざまな種類のガラスが存在しています。しかし、それぞれの名称から窓ガラスの防犯性能について勘違いしてしまっている人も少なく無いと言われているのです。ここでは、住宅に採用されることが多い代表的な窓ガラスと、その防犯性についてご紹介しておきます。
合わせガラス
いわゆる『防犯ガラス』と呼ばれるタイプが合わせガラスです。このタイプは、上述したように、2枚のフロート板ガラスの中間に高い耐貫通性と耐衝撃性を持つ樹脂膜を圧着することで防犯性を高めているのです。
注意が必要なのは、防犯ガラスと呼ばれるタイプは総じて合わせガラスなのですが、「合わせガラス」と呼ばれる場合、防犯ガラスではない場合もあるということです。防犯ガラスはあくまでも、中間膜が高い耐貫通性と耐衝撃性を持つ強靭なガラスのことなのです。
このタイプは、一般的なフロート板ガラスよりは防犯効果が高くなります。
合わせ強化ガラス
強化ガラスの中間に強靭な中間膜を圧着させた合わせガラスです。同じ厚さのフロート板ガラスを用いた合わせガラスよりも防犯性が高く、耐風圧強度も高くなります。
合わせ複層ガラス
複層ガラスを片側1枚、または2枚とも利用した合わせガラスのことです。中間により強度の高いポリカーボネートを挟んだものもあり、高い防犯性があります。
強化ガラス
名称だけで言えば、非常に高い防犯性を誇っているように思えますが、このタイプは防犯効果は低いです。強化ガラスは、一般的なフロート板ガラスを加熱処理して強化したもので、割れた際に粉々になるため、災害時などの安全性が高いということが売りです。
一般的なフロート板ガラスよりは高い強度を持っていますが、侵入者の攻撃に耐えられるほどの強度はなく、防犯目的としてはあまりオススメできません。
網入りガラス
網入りガラスも一見高い強度を持っていそうですよね。しかし、このタイプは防火用に開発されたガラスですので、高い防犯効果は見込めません。網入りガラスは、ガラス内にワイヤーを仕込むことで、火災発生時でも割れにくくするのが目的です。
一般的なフロート板ガラスよりも割れにくいのは確かですが、防犯ガラスと比較すれば、その強度はあってないようなものです。
ペアガラス(複層ガラス)
ペアガラスも2枚のガラス板を使いますので、防犯効果を見込んでしまう人がいます。しかし、このタイプは、ガラスとガラスの間に空気層を作り、断熱性能の向上や結露対策が考えられているのです。
特に耐衝撃性のある物を挟むわけでもなく、空気の層があるだけですので、侵入者の攻撃には耐えられません。
このように、さまざまなガラスが存在するものの、防犯効果を見込めないタイプも多いのです。防犯性能を重視した窓ガラス選びをする場合、「防犯ガラスにしたい」と明確に伝えるようにしましょう。
防犯ガラス選びのポイント
それでは最後に、実際に防犯ガラス選びをする際、皆さんがおさえておきたいポイントご紹介していきましょう。一口に防犯ガラスと言っても、製品によってその強度が異なりますので、求める防犯性を実現するためには注目すべきポイントがいくつかあるのです。
さらに、防犯性能以外の機能性のこともありますので、最低限以下に紹介するポイントはおさえておきましょう。
①強度について
防犯ガラスを選ぶ方は、やはり住宅の防犯性能向上が目的だと思います。したがって、導入する防犯ガラスはそれなりの強度を持っていなければ意味がありません。
防犯ガラスは中間膜の厚みや素材によって強度が変わるとご紹介しましたが、もちろん強度が高くなるほど高価になってしまいます。したがって、予算のこともしっかりと考えて選択するガラスの種類を選びましょう。一般的に60mil(1.52mm)タイプの防犯ガラスが選ばれることが多いです。これ以下になると、バールなどによる打ち破りを防ぐことができませんし、侵入者が諦める目安の「5分」を守ることができない可能性があるからです。
②『PVB』ならUVカット機能もある
防犯性能のことを考えると、中間膜にポリカーボネート(PC)樹脂が採用されているものの方が強いです。しかし、PVBを採用しているものであれば、UVカット率99.9%と防犯効果以外の効果も得られるのです。
防犯に合わせてUVカット性能が欲しい…と考えるのであれば、中間膜に『PVB』が採用されているものを選びましょう。
③防音性能について
住宅の窓は、防音性能にも関係します。防犯ガラスについては、一般的なフロート板ガラスよりも防音性が高いと言われていますが、そこまで高い性能を求めることはできません。
優れた防音性能も求めたいのであれば、合わせ複層ガラスなどがオススメです。ちなみに複層ガラスであれば高い断熱性も得られるため、住宅の快適性を上げてくれます。もちろん、一般的な防犯ガラスよりも高価になります。
④信頼性なら『CPマーク』に注目
「防犯性能の高い建物部品の開発・普及に関する官民合同会議」で認められた商品に与えられるのが『CPマーク』認定です。
つまり、『CPマーク』認定商品は、厳しい基準をクリアした製品の証拠ですので、信頼性のある防犯ガラスだと言えます。少々高くても、信頼性のある防犯ガラスが良いと考えている方は『CPマーク』ありきで商品を探すと良いでしょう。
なお、板硝子協会も「こじ破り」「打ち破り」に対するランクを独自で制定しています。このランクは、こじ破りが「P1K〜P3K」、打ち破りが「P1A〜P5A」という表記で表され、数字が高いものほど強度が高いという設定になっています。板硝子協会で防犯ガラスと認められるには「P2K」「P2A」以上が必要になります。
参考資料:ガラスの防犯性能に関する板硝子協会基準
まとめ
今回は、住宅の防犯性を向上させてくれる防犯ガラスの基礎知識についてご紹介しました。この記事でもご紹介したように、空き巣被害など、住宅への侵入犯罪に関しては、出入り口を使って侵入するのではなく、その多くは窓ガラスを破るという手口となるのです。したがって、窓ガラスを防犯ガラスにすることで、住宅の防犯性が向上するのは間違いありません。
しかし、一口に防犯ガラスと言っても、購入する製品によって強度などが異なるため、どのようにして強度を得ているのか、自分が求める防犯性を得るためにはどの製品を購入すべきは知識として持っておかなければいけないのです。
現在、新築戸建て住宅の購入を検討している方で、住宅の防犯性能を上げたいと考えている方は、ぜひ防犯ガラスの導入を検討してみてはいかがでしょうか?