ここ最近、住宅の購入を検討し、住宅ローンについて調べてみた方は『残価設定型』という言葉を目にして「どんな意味があるのだろう?」と疑問に思ったという方も多いのではないでしょうか?実際に、2020年10月12日の日経新聞では、政府と民間の金融機関が残価設定型住宅ローンを開発し、モデル事業の開始を予定しているという記事が出ています。
しかし、住宅ローンにおいては『残価設定型』というものがあまりメジャーではないため、この言葉を見てもイマイチピンとこない…という方が多いと思います。残価設定型ローンに関しては、自動車ローンでは一般的になっており、自動車のCMなどでも「今なら新車に半額で乗れる!」などと、残価設定型ローンを採用した体で広告を出すことも増えています。実際に、自動車の購入時には残価設定型ローンを利用する方が増えていると言われています。
それでは、住宅ローンにおいて、この『残価設定型』ローンの実現にはどのようなメリットがあるのでしょうか?この記事では、「そもそも残価設定型とは何か?」という基礎知識や、これを利用した場合のメリット・デメリットをご紹介していきたいと思います。
残価設定型ローンとは?
それではまず、「残価設定型って何?」という方のため、残価設定型ローンがどういった仕組みになっているのかを簡単にご紹介していきましょう。ここでは、既に一般的に利用されるようになっている自動車を残価設定型ローンで購入する場合を例に挙げて、その仕組みをご紹介していきます。
残価設定型ローンは、簡単に言うと、自動車の購入時点で数年後(3~5年後)の自動車の査定額(残価)を予め差し引いておき、残りの金額をローンで支払っていくというものです。例えば、300万円の自動車を5年ローン(60回払い)で購入する際には、5年後の自動車の査定額(残価)を120万円に設定し、残りの180万円59回に分けて返済していく感じになるのです。そして最後の60回目の返済時に以下のどれかのパターンを選択するというものになっています。
- 自動車を返却(売却)して残価を一括返済する
- 販売会社に自動車の残価を一括で支払、ローンを完済する(自動車を買い取る)
- ローンの再設定を行い、所有権が得られるまで返済を続ける
残価設定型の自動車ローンで自動車を購入した場合、返済が最終回を迎えたときに上記のどれかの手段を選ぶことになります。ただし、自動車の状態などによってはローンの再設定ができない…などのリスクもありますので注意しましょう。
それでは、こういった残価設定型ローンにはどのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか?以下で見ていきましょう。
残価設定型ローンのメリットとデメリット
残価設定型ローンの最大のメリットは、購入時点で数年後の残価を設定して、残りをローンで返済していく形となるため、毎月の返済額が抑えられるという点です。それでは、残価設定型ローンが住宅ローンで実現した場合に考えられるメリットとデメリットを簡単にご紹介しておきましょう。
残価設定型ローンのメリット
一般的に残価設定型ローンのメリットと言われるのは以下の2点となります。
- 毎月の返済額が低く抑えられる
- 残価が保証されている
上述したように、残価設定型ローンを利用した場合、同じ自動車を一般的な自動車ローンで購入したのと比較すると、最終回までに返済しなければならない元金が、残価設定分少なくなるため、毎月返済しなければならない金額が少なくなるのです。
これを住宅ローンに当てはめた場合、若い世帯を中心に所得が伸び悩んでいる…と言われている中でも、自分の住まいを取得するハードルを低くすることができると期待されているのです。例えば、子育て中の若い夫婦であれば子育てのための支出がたくさんありますので、毎月の住宅ローン返済額が少なくなれば、それだけで住宅も取得しやすくなると考えられます。
さらに、残価設定型ローンは、返済が最終回を迎えた時、当初設定した金額よりもその価値が下がっていたとしても、契約時に決めた残価を保証してもらえるのです。住宅というものは、そこにあるだけで劣化していくものですので、本来どんどん売却が難しくなるものです。しかし、残価設定型ローンの場合は、マイホームの残価が保証されているため、将来売却価格が残価を下回って売却が難しくなる…なんて心配もないのです。
残価設定型ローンのデメリット
上記のようなメリットがある一方で、いくつかのデメリットも指摘されています。一般的に、以下の2点が残価設定型ローンのデメリットと言われています。
- 通常のローンよりも利息負担が高額になる場合がある
- 残価が保証されない場合がある
残価設定型ローンを利用し、最終回に一括返済するローンにして返済する場合、フルローンで借入する場合よりも返済金額が高くなるというデメリットが指摘されています。自動車の残価設定型ローンの場合、実は最終回の一括返済元本に適用される金利が高くなる場合があるのです。したがって、もし残価設定型の住宅ローを利用すると仮定した場合には、この点は注意しておかなければいけないでしょう。
2つ目のデメリットは「残価が保証されない場合がある」と言う点です。メリット面で紹介した内容と真逆になるのでびっくりした方も多いかもしれませんね。実は、残価設定型ローンで残価が保証されるのは、「最終回の返済時に売却したときの金額のみ」とされるのが一般的なのです。そのため、ローン途中で売却する場合などには、残価として保障される金額よりも売却額が低くなる可能性があるのです。
自動車の残価型ローンを例にすると、まだ返済途中の自動車で事故を起こしてしまった場合、残価から損害額が差し引かれるのが一般的です。つまり、住宅の残価設定型ローンについても、建物の傷み具合や損害状況、その損害の理由などから、残価から減額がある仕様になる可能性が高いのです。
残価設定型の住宅ローンは本当に実現するのか?
ここまでの説明で分かるように、残価設定型ローンは、月々の負担が少なくなるため、若い世代でもマイホームを手に入れやすくなるなど、消費者からすれば非常にありがたい制度のように思えます。それでは、既に自動車販売業界では一般的になっている残価設定型ローンが住宅業界に普及していないのはなぜなのでしょうか?その理由は、自動車などと異なり、住宅の残価の設定が非常に難しいことにあるのです。
例えば、自動車の残価設定ローンに関しては、返済期間が3~5年程度と、比較的短期間に設定されるため、普通に利用された場合に自動車の将来的価値の予測はそこまで難しくないのです。そのため、金融機関も現実的な残価設定が可能になるのです。
一方、住宅ローンの場合、返済期間の最長が35年などと、自動車と比較すれば圧倒的に長期間になるのです。さらに、日本国内の住宅市場では『新築信仰』などと言う言葉が作られるほど、中古住宅よりも圧倒的に新築住宅の人気が高くなるのです。そのため、築20~25年を超えた中古住宅の場合、建物部分の資産価値が0円になることも珍しくなく、将来価値の予測が非常に難しいのです。
もちろん、残価設定を間違ってしまった場合、損をするのはローンを貸出しした金融機関になってしまいます。そのため、住宅ローンでは残価設定型がなかなか普及しなかったのです。
ここにきて、住宅ローンでも残価設定型の実現が目指されるようになってきたのは、質の高い住宅である「長期優良住宅」が普及してきたことにより中古住宅を選択する方が増えてきたのも一つの理由でしょう。
また、残価設定型住宅ローンは、最終回の返済時期まで住宅の価値を保っていなければいけないという特徴があるため、残価設定型住宅ローンが実現したとしても、定期的な住宅のメンテナンスや修繕が義務化されている『長期優良住宅』のみが対象となる可能性が高いかもしれません。他には、地域的な特性で、将来価値が大きく下落すると予想されるような場合も、残価設定型が選べないなど、さまざまな条件が付属されることになるでしょう。
現在は、2021年から民間の金融機関が参加するモデル事業がスタートすると言われていますので、詳細がわかればまた記事にしてご紹介したいと思います。