マイホームを購入する時には、ほとんどの方が「そこに住み続ける！」という考えのもと大金を支払うものです。しかし、人生とはいつでも自分の思い通りに進むようなものではなく、せっかく購入したマイホームの住み替えを検討せざるを得ない…なんて状況が訪れてしまうケースも十分に考えられます。
このような場合、家の売却で住宅ローンが完済できるような人であれば、特に頭を悩ませることもなく、新居探しを進められることでしょう。しかし、経済の状況などによっては、家の売却をしようにも住宅ローンが完済できなくて、次の住宅の購入資金を捻出できない…なんて可能性も考えられます。
『住み替えローン』や『買い替えローン』と呼ばれるものは、このように、家を売却したとしても住宅ローンが残ってしまっている方が、新居の取得に使用できるという非常に心強いローンです。しかし、住み替えローンは、非常に便利な一面がある一方で、特殊な状況で利用するローンとなることからそれ相応のデメリットや使いにくさを感じてしまう…という場面も少なくないと言われているのが実情です。
そこでこの記事では、住み替えローンや買い替えローンと呼ばれる資金調達方法のメリットやデメリット、実際に利用する場合の注意点について解説していきたいと思います。
住み替えローンとは？
それではまず、住み替えローンや買い替えローンがどのような特徴を持ったローンなのかを簡単に解説していきましょう。その名称から、「家を買い換える時に使用するローン」というのはイメージできると思うのですが、実は「家の買い替え」だけが条件で使用できるわけではないのです。
オーバーローンのときに使えるローン
住み替えローンは、家の買い替え時にいつでも利用できるわけではなく、住み替え時に『売却物件がオーバーローンになってしまう…』時に利用できるものです。
オーバーローンとは、家の売却時に住宅ローンの残債が売却額を上回っていることを指しており、これと逆に売却額の方が残債より高くなることをアンダーローンと言います。そして、住み替えローンや買い替えローンと呼ばれるものは、家を売却しても完済しきれなかった残債を、次に購入する物件価格に上乗せしてローンを借りるというものになります。
通常、家の住み替え時には、売却物件の住宅ローンを売却額によって一括返済するものです。上述したアンダーローンの状態になっていれば、残債を一括返済できるのですが、オーバーローンの状態では一括返済することができませんね。そこで、新しく購入を考えている物件があれば、その購入費用に残債分を上乗せしてローンを借りるという形をとり、売却物件の残った住宅ローンを返済したという形をとれるのが住み替えローンです。
この住み替えローンの最大の特徴は、購入物件への融資日と売却物件の返済日を同日に合わせなければならないという点です。というのも、住み替えローンというものは、あくまでも新たな物件に対して融資するという形をとることから、購入する物件が無ければローンそのものを利用することができないわけです。売却物件の残債は、物件購入のために借りたお金で返済するという形式ですので、売却と購入の日を合わせる必要があるわけです。
一般的な住宅ローンとの違い
ここで気になるのは、住み替えローンが一般の住宅ローンと比較した場合に、何がどう違うのか？という問題ですよね。この部分に関しては、基本的な仕組みは通常の住宅ローンとほぼ同じなのですが、以下の点が大きく異なると覚えておきましょう。
- 担保価値以上のお金を借りるローン
- 通常より、融資審査が厳しくなる
- 取扱銀行が少ない
- 金利タイプが少ない
住み替えローンの最も注意しておきたいポイントとしては、担保価値以上のお金を借りるローンだという点です。担保価値とは、お金を貸すときに銀行が担保をつける物件の価値のことです。住み替えローンの場合、家本体の価格以外にも、残債分のお金を借りることになるため、担保価値以上のお金を借りている状態になるわけです。そのため、万一、将来的に返済が難しくなり、家を競売にかけられてとしても、競売後に残る残債が大きくなってしまいます。
2つ目の融資審査に関しては、銀行側の視点で考えれば、担保価値以上のお金を貸すことになるため、「リスクの高い融資」という見方になります。そのため、通常の住宅ローンであれば普通に審査を通るような方でも、住み替えローンには落ちてしまう…なんて場合は珍しくありません。一般的には、大企業に勤めている、公務員など、条件の良い人でなければ審査が通らない…と言われています。
3つ目、4つ目に関しては、「リスクが高い商材」となってしまいますので、そもそも取り扱いたいと考える金融機関は少なくなってしまうのが普通ですよね。そして、取り扱う金融機関が少なくなれば、その分、商品自体も少なくなりますので、必然的に選べるほどの金利タイプの商品ができないという訳です。
住み替えローンは誰もが利用するものではない
住み替えローンは、利用したい人が全て利用することができるような物ではありません。そもそも、住み替えを検討した際に、オーバーローンにならないのであれば使う必要すらないので、住み替えローンの存在すら気付かずに過ごしている方も多いと思います。
そして、住み替えを検討して、もともとも住んでいた家を売却しようとした際に、オーバーローンになってしまう…という方でも、返済しきれなかった残債について、貯蓄などの自己資金や親の援助などで完済できる場合、住み替えローンは利用しない方が良いと思います。というのも、こういった方の場合、通常の住宅ローンを利用すれば、担保価値以上のお金を借りる必要性が無いわけで、通常の住宅ローンならさまざまな金利タイプの中から自分に最適なものを選択することができるというメリットが得られるはずです。
これからも分かるように、住み替えローンについては、オーバーローンになってしまう方で、貯蓄などで残債を返済できない方が利用するものと考えてください。ただし、これはあくまでも「利用を考えるべき人」の種類であり、実際に利用しようと思えば「売却と購入の日を合わせる」「融資審査に通過する」という条件が付いてきます。
住み替えローンのメリットとデメリット
それでは次に、住み替えローンのメリットとデメリットを簡単に解説していきましょう。ここまでの説明で分かるように、住み替えローンは誰もが利用するものではありません。しかし、万一のことを考えると、住み替えローンを利用する場合のメリットとデメリットはきちんと押さえておくべきでしょう。
住み替えローンのメリット
まずは住み替えローンを利用するメリットからです。
住み替えローンの大きなメリットと言われているのは、オーバーローンの状態でも家を売却することができるという点です。通常、家の売却は、売却額でローンを完済しないといけないのですが、頭金なしで家を購入した、値下がりしやすい立地の物件を購入したという場合、オーバーローンになってしまう方が多いです。住み替えローンは、こういった方でも売却を実現でき、新しい家に住み替えることができるため、非常にありがたい仕組みになると思います。
また、オーバーローンになっても、自己資金で補填する必要がないという点も大きいです。貯金を切り崩し無理矢理残債を返済する…なんて方もいるでしょうが、その後、何らかの理由でお金が必要になったなんて場合に、対応できなくなってしまうリスクが生じます。住み替えローンは、自己資金を取り崩す必要がないので、万一に備えて貯金を残せるという点が非常に大きなメリットになります。
他にも、オーバーローンでも住み替えローンを利用すれば、ブラックリストに乗らないというメリットがあります。オーバーローンの物件を売る場合、任意売却という手段があるのですが、この場合、債務を全額返済できなかったという債務不履行が発生したことになり、ブラックリストに名前が載ってしまうのです。ブラックリストは信用情報機関の事故情報名簿に名前が残るという意味で、その後5～7年間は新規のローンが組めなくなる…などさまざまなデメリットが生じてしまいます。住み替えローンの場合、新たな物件の資金として借りたお金で残債を返済するという形になるため、こういったリスクが生じないというメリットが得られます。
住み替えローンのデメリット
次は、住み替えローンを利用した場合のデメリットです。
まず注意しておきたいのは、オーバーローンの状態で住み替えローンを使用し、新たな家を購入した場合、将来再びオーバーローンになってしまう可能性が高いという点です。要は、住み替えローンは、オーバーローンの問題を先送りにしているだけと考えられる点がデメリットです。住み替えローンは、物件価格以上のローンを組んでいるわけですので、将来的にその物件を売却しなければならなくなった時には、売却額でローンを完済できる可能性は低く、再びオーバーローンに悩まされてしまう可能性が残ります。
さらに、住み替えローンの特徴でもご紹介したように、そもそも商品自体が少ないので、良い条件のローンを見つけるのは至難の業だと考えておいた方が良いです。借入総額があがりますので、住み替えローンを組んだ後に返済で四苦八苦になってしまう…なんてことが考えられるでしょう。
最後は、デメリットとまでは言いにくいのですが、住み替えローンの場合、購入と売却を同時にしなければならないという点は注意すべきです。住み替えローンを利用する場合、売却も購入もスケジュールの制約がありますので、どちらも満足のいく結果を得られるまで挑戦するなんてことはできません。例えば、売却期限が決まっていることから、値段交渉に乗らざるを得ず安く売ってしまう、納得しきれない物件を購入してしまうことになるなどの可能性があります。
まとめ
今回は、住み替えを検討した場合に非常に心強い味方となってくれると言われる住み替えローンについてご紹介してきました。マイホームは、一生の買い物と言われますが、何らかの事情で住み替えが必要になるということも珍しくありません。この時に、アンダーローンの状態になるのであれば、スムーズに住み替えすることができるのですが、オーバーローンになってしまう方は、元の家のローンをどのようにして完済するのかをまず考えなければいけないのです。
貯金など、自己資金で補填すれば問題ないという場合もありますが、自己資金を使ってしまうと、貯金が尽きてしまう…なんて場合、新居の購入にも支障が出てしまいますし、本当に困った状態に陥ってしまうことになります。住み替えローンは、審査が非常に厳しいという問題はありますが、利用できる方からすれば、万一の時のための貯金を残しながら住み替えを実現できる非常に有効な手段となります。
ただし、家の売却と購入を同時に進めなければならなくなりますので、スケジュールがかなりきつくなるという点は注意しておきましょう。また、住み替えローンが利用できるからといって借り過ぎてしまうと後々困ってしまうのは自分だということも忘れないでください！
