古き良き日本の住宅では、家の中の壁に『土壁』が広く取り入れられていました。現在の住宅事情を考えてみると、キレイな壁紙を選択して内装のデザインをしていくというのが主流になっており、新築住宅で『土壁』にしたいという要望を聞くことはあまりなかったように思えます。
しかし、珪藻土が普及してきたことにより、ここ数年土壁の人気が再度高まり始めていると言われており、LDK部分の壁に土壁を採用するなど、さまざまな空間に取り入れられるようになっているのです。実際に、弊社で家の設計の相談をしている場合でも、土壁に関する質問が増えてきたように思えます。例えば、土壁が経年劣化してきたら、後から壁紙にしたりできるの?なんて質問や、自分たちでDIYによってリフォームしたりできますか?なんて質問も多いです。
そこでこの記事では、憧れのマイホームを建てる時に、土壁を採用するメリットやデメリット、そもそも土壁とはどのような性質を持った素材なのかについて簡単にご紹介していきたいと思います。
土壁の特徴とは?
それではまず『土壁』がどのようなものなのかという点から簡単にご紹介していきましょう。それなりに築年数が経過した住宅であればよく見かけますが、土壁はその名称通り、土を使用して造る壁で、左官仕上げの壁の事を指しています。なお、仕上げ(上塗り)用の土色によって、『聚楽(じゅらく)壁』『錆(さび)壁』などの種類が存在します。土壁は、主な原材料が土なのですが、それ以外にも藁などが用いられたものもあるなど、高温多湿な日本の気候に適した壁だと言われています。
現在の土壁では、『珪藻土』が最もポピュラーな素材となっています。珪藻土は、水を良く吸うバスマットとして人気になっていますが、これは、海や湖に生息する珪藻(植物プランクトンの一種)の死骸が、長い年月をかけて堆積した土です。そしてこの珪藻土は、調湿・保温・断熱など、住宅に必要なさまざまな効果に優れているという特徴を持っているのです。近年では、ホルムアルデヒドなど、壁紙の化学物質を問題視する方が増えており、珪藻土などの自然由来の素材を使った家づくりを目指す方が多くなったことから、土壁が見直されるようになっているのです。
なお土壁に関しては、左官仕上げするものですので、仕上がりのデザイン性は壁紙以上に独自性を出すことが可能です。例えば、石などを混ぜ込んで、ゴツゴツした仕上がりにしたり、逆にツルツルした仕上がりにしたりと、使用する材料によって肌合いを変更することが可能です。また、左官仕上げですので、コテ跡を残すように仕上げていけば、立体感を演出したり、独自のデザインの壁を実現することが可能です。
近年では、アースカラーのナチュラルな色味だけでなく、さまざまなカラーバリエーションが増えていますので、個性的な空間づくりが可能になったという点も人気の理由なのかもしれませんね。
土壁のメリット・デメリット
それでは、住宅の内装に『土壁』を採用する場合に得られるメリットや、注意しておきたいデメリットに関しても簡単にご紹介していきましょう。
土壁のメリット
それではまず、土壁を採用することで得られるメリット面からご紹介していきましょう。主に以下のようなメリットがあると言われています。
- 土は燃えない素材ですので、耐火性・断熱性が高い
- 調湿作用、脱臭効果で室内の空気を綺麗に保ってくれる
- 吸音性や遮音性に優れている
- 自然素材なのでアレルギーの心配が少ない
- 仕上げ方で、独自性のあるデザインを実現できる
土壁は、上記のようにさまざまなメリットが存在します。主な素材が土ということで、耐火性に優れて、断熱性の高い家が実現するのは嬉しいポイントです。さらに、コロナ禍で、在宅時間が増えてきた現在では、吸音性や遮音性に優れているというポイントも非常に大きなメリットと言えるでしょう。
住人の健康面で考えると、調湿作用、脱臭効果が非常に大きいです。例えば、高湿な気候の日本では、室内の湿度があがれば、壁が水分を吸収し結露などを防ぎ、乾燥すればため込んだ水分を放出するといった効果は、カビやダニの発生を抑え、快適な空間を保ってくれるという非常に大きな効果があるのです。さらに、脱臭だけでなく、化学物質などを吸着し、キレイな空気を保ってくれるという非常に優れた壁が実現します。
小さなお子様がいるご家庭であれば、自然素材を使った壁ですので、有害な化学物質などなく「シックハウス症候群(ホルムアルデヒドなどの化学物質に対するアレルギー)」の心配が少ないのも非常に嬉しいポイントだと思います。
このように、住宅の性能面だけでなく、そこに住む人の健康にも役立つうえ、個性的なデザインまで実現できるということから、近年、再注目されているのだと思います。
土壁のデメリット
次は、土壁を採用する方が注意しておきたいデメリット面も簡単にご紹介しておきます。
- 汚れても水拭きできない
- 紫外線による経年劣化で接着強度が落ちる。それにより壁土が取れることがある
- 施工費用が高く、工期が長い
土壁の大きなデメリットは、壁紙よりも施工費用がかなり高くなってしまうということです。左官で仕上げていくというものでので、経験や技術が必要な施工で、一般的に壁紙施工よりも3~5倍ほど費用が高くなると言われています。また、乾燥を待たなければいけないということから、施工にかかる時間もかなり長くなります。
日常生活でのデメリットを考えると、何らかの理由で土壁が汚れてしまった場合、水拭きができません。そのため、「汚れは味として捉えていく」必要があると言われています。本革のお財布に様に、使い続けていくことで、革本来の味が出る…などという表現に似ているのですが、汚れは汚れですので、気になって仕方ない…なんて方もいるのが大きなデメリットです。さらに、経年劣化の事を考えると、壁紙よりも手間がかかるということは頭に入れておきましょう。土壁は、紫外線などの影響で、徐々に接着強度が落ちてきて、ちょっとした衝撃でボロボロと土が剥がれ落ちてしまうようになります。壁の見た目も悪くなるだけでなく、小まめに掃除しないといけないという点は大きなデメリットです。
土壁のメンテナンスについて
それでは最後に、土壁を採用しようと考えている方がおさえておきたい、メンテナンスについてご紹介していきましょう。上述したように、土壁は、経年劣化で徐々に接着強度が落ちてきてしまい、ボロボロと土が落下してきてしまう…という症状が出ます。それでは、こういった場合には、どういったメンテナンスが必要で、どの程度の費用がかかるものなのでしょうか?
土壁の上に壁紙を貼ってリフォームできる?
「土壁が劣化してきたから、壁紙にリフォームできるかな?」と考える方は多いようです。壁紙の施工は、極端に言うと、壁に好みの壁紙を貼り付けていくだけですので、「土の落下も防げて一石二鳥だ!」と考えるのかもしれませんね。
しかし、土壁の場合、表面に凹凸が多く存在することから、壁紙の接着力が弱くなり、すぐに剥がれてしまう…心配があります。要は、土壁の上から直接壁紙を貼るのはオススメできないということです。特に、コテ仕上げで何らかのデザインをしている場合には、壁に大きな凹凸があることから、壁紙が貼り付けできない…なんてことになるでしょう。どうしても壁紙に変更したい場合、土壁の表面の凹凸を無くして、平らにしてから貼付けしていく必要があります。例えば、まずべニア板を張ってから壁紙を貼る…などといった方法になりますので、DIYで何とかしようとするのは難しいかもしれませんね。
なお、「壁紙⇒土壁」という場合であれば、ビニールクロスの上から施工できる土壁が登場していますので、そういったものを利用すれば問題ありません。
土壁のメンテナンス費用について
上述したように、土壁は水拭きができないため、10年ほど経過すれば汚れが目立ってきます。また、経年劣化で、土が落下し始めることも考えられます。したがって、約10年を経過して「汚れが目立ってきたな…」と感じた場合、専門業者に依頼してメンテナンスしてあげましょう。なお、既に下地劣化が始まり、ボロボロと崩れ始めている場合、その上から土を塗り重ねても、下から全部剥がれてしまう危険があります。このような場合は、下地からやり直さなければならないと考えましょう。
土壁のリフォームに関しては、同じように自然素材を塗りなおすという手法になります。どの素材を採用するのかによって必要な費用は変わってしまうのですが、左官作業の技術費を合わせて「2000~5000円/㎡」程度が目安となります。なお、コテ跡でデザインを残す場合は、もう少し高くなります。工事に関しては、施工面積によって変わりますが、施工にかかる時間以外に、乾燥させるための時間(1~2日)が必要になると考えておきましょう。
まとめ
今回は、住宅の内壁として再注目されている『土壁』についてご紹介してきました。日本国内で古くから人気の土壁は、調湿機能などを持っており、高温多湿な日本の気候には非常に適した素材だと言われています。近年では、壁紙にその立場を奪われていたのですが、珪藻土が広く普及してきたことから、新築業界でも再注目されているのです。
この記事でご紹介したように、壁紙にはないさまざまなメリットを持った素材ですが、メンテナンスの手間など、忘れてはいけないデメリットも存在します。メリット面とデメリット面、どちらを重視するのかよく検討して採用するかどうかを決めるのがオススメですよ!
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